
しばらく飛行機での家族旅行をしていなかったせいで、私は大事なことを見落としていた。
全日本空輸の「今週のトクたびマイルが、2026年1月からこっそり改定」されていたのである。
以前は「旅程前日」まで予約できた。
つまり、金曜の夜に「明日ヒマ?」と家族に聞き、全員がなんとなく頷けば、土曜の朝には飛行機に乗っている、という芸当が可能だったのだ。
それができなくなった。
予約可能期間が前倒し。
思いつき旅行、終了のお知らせである。
私はあの“雑な決断”が好きだった。
金曜の夜、冷蔵庫を開けながら「今週末どうする?」とつぶやく。予定が空白だとわかると、急に心が軽くなり、マイル検索を始める。北海道、福岡、那覇。どこでもいい。空いているところが運命の行き先である。
旅行というより、くじ引きに近い。
そして翌日、眠い目をこすりながら空港へ向かう。
「なんで行くことになったんだっけ」と思いながら搭乗するあの感じ。あれはなかなか楽しかったのである。
それがもうできない。
私はスマホの画面を見ながら、静かに肩を落とした。
改悪、という言葉はあまり使いたくないが、これは私にとっては立派な改悪だ。
思えば、あの制度は「ヒマ」という贅沢を最大限に活かす仕組みだった。
予定がない。
だから飛ぶ。
なんという自由。
だが最近は、そもそも「ヒマ」がない。
昔はよかった、などと言うと年寄りくさいが、実際よかったのである。
「明日飛行機乗るよ」と言えば、それだけで祭りだった。荷造りも適当でよかった。パジャマと歯ブラシさえあれば、どうにかなった。
制度の変更自体は、ANA側にもいろいろ事情があるのだろう。需要予測だの座席コントロールだの、大人の事情があるのだと思う。私はそれを責めるつもりはない。
ただ、金曜の夜のワクワクが一つ減った。
それだけだ。
思いつきで飛ぶという遊びは、実はとても贅沢だったのかもしれない。時間が合い、体力があり、子どもが素直についてきてくれるという、いくつもの条件が揃って初めて成立していた。
制度が変わったのか、家族のステージが変わったのか。
たぶん両方なのだろう。
もし今「明日行くかー」ができたとしても、本当に全員そろって行けるのだろうか。もしかすると、制度が残っていても、もうあの遊びは自然消滅していたのかもしれない。